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札幌高等裁判所 昭和56年(行タ)1号 決定

申立人 松栄直勝

相手方 函館税関長

代理人 篠原一幸 吉戒修一 小野耕造 手塚孝 小沢義彦 片桐春一 畑山昭信 ほか五名

主文

申立人の本件文書提出命令の申立を却下する。

理由

一  申立人の本件申立の趣旨は、相手方に対し別紙一、「文書提出命令の申立」の1記載の文書の提出を命ずる旨の決定を求める、というものであり、その理由は、同別紙に記載のとおりである。

相手方の本件申立に対する意見は、別紙二、「意見書」に記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

頭書事件について大蔵省関税局長から当裁判所宛の蔵関第三〇五号、昭和五六年三月二〇日付書面及び相手方の本件申立に対する意見によると、関税定率法(ただし、昭和五五年法律第七号による改正前のもの。以下「定率法」という。)第二一条第一項第三号の意義を規定した通達、内規は存在しないが、同号にいう「風俗を害すべき物品」に該当するか否かについて具体的に例示した通達、内規及び税関長、税関職員等が「風俗を害すべき物品」を発見した場合の事務処理手続、定率法第二一条第四項による異議の申立があつた場合の審査要領等を定めた通達、内規が存在し、右の各通達、内規が記載された書面(以下右の書面を一括して「本件文書」という。)を相手方が所持しているものと認められる。

しかしながら、右の各通達、内規も、行政庁が定めている通達、内規等の一般的性質から考えて、税関長、税関職員等の関係行政機関、職員の判断、取扱いの統一をはかる等の目的で、その準則を定めたものと考えられ、申立人と相手方外一名間の頭書事件において、申立人が取消を請求している各通知処分によつて生じた申立人と相手方外一名との間の個別、具体的法律関係について策定したものではなく、また右の個別、具体的法律関係が形成される過程において定められたものでもないと考えられる。

してみると、その余の争点について判断するまでもなく、本件文書は民事訴訟法第三一二条第三号後段所定の文書に当らないものといわなければならない。

また、定率法第二一条第一項第三号にいう「風俗を害すべき物品」の意義、認定基準を定めた大蔵省(関税局長)の通達、内規については、その存否に関する大蔵省関税局長の意見は前に触れたとおりであり、その存否につき申立人において立証するところがない。

よつて、申立人の本件文書提出命令の申立は理由がないから、これを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 石崎政男 寺井忠 八田秀夫)

別紙一 <略>

別紙二 意見書

控訴人らは、被控訴人の昭和五六年三月二六日付け文書提出命令の申立てに対し、次のとおり意見を申し述べる。

一 大蔵省関税局長が貴裁判所あてに昭和五六年三月二〇日付けで通知したように、関税定率法(ただし、昭和五五年法律第七号による改正前のもの。以下「定率法」という。)二一条一項三号の意義を規定した通達・内規は存在しないが、右同号にいう風俗を害すべき物品に該当するか否かについて具体的に例示した通達・内規及び同物品を発見した場合の事務処理手続、異議の申出があつた場合の審査要領等を定めた通達・内規は存在する。

これらの通達・内規は控訴人らが定率法及び関税法(ただし、昭和五五年法律第七号による改正前のもの。以下「法」という。)所定の該当通知及び異議の申出に対する決定をなすに当たり行政機関内部での取扱いの準則を定めるとともに、その判断過程において参考とするためのものにすぎないのであるから、その内容がいかなるものであるにせよ既にこれらの通達・内規に従つてなされた該当通知及び決定そのものの適否が争点となつている本件においては、右の通達・内規の内容についてことさらに証拠調べを実施する必要はないものといわなければならない。

ことに被控訴人が立証事実としてあげる定率法二一条一項三号の風俗を害すべき物品の意義の不明確性についていえば、その意義が不明確か否かは、同法の文言解釈等から判断し得ることであるし、また、税関検査の運用実態についていえば、それがいかなるものであるにせよ、本件争点についての判断のための必須の前提となるものではないのであるから、右の通達・内規について証拠調べを実施する必要はない。

二 更に、右の通達・内規は本件の該当通知及び決定を契機として、あるいはそれに至る過程の中で作成されたものでないことは無論のことであるし、また、ことさら本件処分を意図して作成されたものでないこともいうまでもないところである。すなわち、右の通達・内規は定率法及び法所定の処分をなすに当たり控訴人らの内部的な事務処理の便宜のために作成されたものであり、それ以上に本件物件につき控訴人らの認識なり判断なりが記載されているものではないのである。

被控訴人は、右の通達・内規が民事訴訟法三一二条三号後段にいう「挙証者ト文書ノ所持者トノ間ノ法律関係ニ付作成セラレタル」文書に該当すると主張するが、そもそも被控訴人と控訴人らとの間の法律関係がいかなるものかは定かではなく、ここではそれは一応さておくとしても、右に述べたように右の通達・内規は本件処分の際の参考とされた以上には本件処分との関連性はなく、また、控訴人らの事務処理の便宜のための純然たる内部的な文書であるから、右の文書には該当しないものといわなければならないのである。

三 民事訴訟法三一二条の文書提出義務は、裁判所の審理に協力すべき公法上の義務であり、基本的には証人義務、証言義務と同一の性格のものと解されるから、文書所持者にも同法二七二条、二八一条一項一号等の規定が類推適用され、したがつて、文書所持者に守秘義務のあるときは、右文書の提出義務を免れ得ると解するのが裁判例の立場である(最近のものとして、名古屋地裁昭和五一年一月三〇日決定・判例時報八二二号四四ページ、東京高裁昭和五二年七月一日決定・判例タイムズ三六〇号一五二ページ等)。

右の通達・内規は、公表された場合における税関行政執行上の支障を考慮して、従来から「部外秘」として取り扱われている。したがつて、右の通達・内規の内容は公務上の秘密として公表できないものであり、民事訴訟法二七二条の類推適用によりこれを提出する義務は控訴人らにはないといわなければならない。

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